研究概要
土方研究室では、大きく分けると、以下の2つの研究テーマを扱っています。
- ソーシャルメディアにおける行動心理モデリング
- 推薦システムにおける行動心理モデリング
ソーシャルメディアにおける行動心理モデリング
土方研究室では、ソーシャルメディアやメタバースなどの新しいサイバー空間における、ユーザの行動心理分析と、そのモデル化を行っています。人類は、これまで手紙や電話など様々なコミュニケーション媒体を使ってきましたが、サイバー空間という新しいコミュニケーション環境において、人々の意思伝達や自己表現の何が変わり、何が本質的な特性として残るのかを解明します。
自己呈示と印象形成
人々がSNS上でどのような投稿を行い、どのように人と交流しているのかを明らかにします。社会心理学の分野では、人が他人からどのように見られたいかを意識して、自分の発言やしぐさを変えることを印象管理 (impression management) と言います。SNSでの聴衆(フォロワー)からの印象形成を分析することで、個人や企業のブランド力向上に寄与します。
Instagramにおける「いいね」獲得
Instagramにおいて、どのような投稿写真がエンゲージメントの1つである「いいね!」を獲得しやすいのかについて分析しています。特に、写真中の顔の有無や笑顔の程度、身体的魅力(顔の良さ)、顔への加工の有無など、顔の表現方法と「いいね!」の数との関係を、実際の投稿と聴衆からの反応を無作為抽出することで明らかにしています。
アイドルのSNS活動とファン獲得
アイドルの卵ともいえる、ミスキャンパス出場者を対象として、出場者の身体的魅力(顔の良さ)とSNS活動量が、コンテスト入賞に影響しているかどうかを明らかにしようとしています。具体的には、X (旧Twitter)、Instagram、SHOWROOM、MyStaという4つのSNSから出場者の行動ログを収集し、これとアンケートで獲得した身体的魅力度と合わせて、分析しています。
ウェルビーイング
SNSは、人々のコミュニケーションの範囲を広げ、いつでもどこでも人とつながれる環境を作りました。一方、インターネット中毒や鬱といった、人々のウェルビーイング(精神的健康)を害する現象もみられるようになりました。人々のSNS上の発言や行動と精神的健康の状態を分析することで、これらの問題を引き起こす原因を解明します。
SNSにおける嫉妬
Instagramにおいて、どのような投稿が視聴者の嫉妬を引き起こしやすいのかを分析しています。嫉妬は、鬱につながりかねない、軽視できない心理状態です。本研究では、出来事の特別感、写真中の人の著者との関係性、テキスト長の3つが、それを読んだ人に嫉妬を誘発しやすいかどうかを明らかにしています.ペルソナによる投稿を提示する心理学実験を行い、コンジョイント分析で明らかにしようとしています。
セルフィー画像投稿とナルシシズム
本研究では、SNSでセルフィー写真を投稿したときに、それが聴衆にどのような印象を与えるのかを心理学実験により明らかにします。写真に写っている人の人数,顔への美顔加工の強度,笑顔の程度,ポーズの有無と,ナルシシズムの関係を明らかにします。投稿者にとってナルシシズムと知覚されない、プロモーション方法を確立します。
推薦システムにおける行動心理モデリング
また土方研究室では、それぞれのユーザに適した商品やコンテンツを提示する推薦システムにおける、ユーザの行動心理分析と、それに基づくインタラクションモデルの開発を行っています。これまで推薦システムの研究分野では、お薦めの正確さを向上するためのアルゴリズムに重点がおかれてきましたが、土方研究室では、人々の推薦システムに対する信頼構築や推薦結果の受容といったユーザの心理に注目します。
信頼と受容
どうすれば、人々が推薦システムからの結果を信頼し、長期間利用し続けてくれるのかについて研究しています。また、どのような場合に、行き過ぎた信頼(推薦過信。over reliance)を引き起こすのかについて研究しています。人類は、これまでナイフやハサミ、食器など、様々な道具を開発してきましたが、自分の意思決定を支援してくれたり、代わりに行ってくれるような道具を使い始めたのは、つい最近のことです。我々は、人々がこのような知的エージェントとどのような信頼の関係を構築していくのかについて、ほとんど理解していません。土方研究室では、推薦システムをはじめとする知的エージェントとの信頼について研究し、よりよいパートナー関係を構築します。
推薦過信と心理尺度
人工知能による推薦や意思決定を導入したサービスが普及するとともに、ユーザは提示された記事やコンテンツを吟味することなく消費する「推薦過信」の問題がおきつつあります。土方研究室では、推薦過信に陥っていないかどうかを知るための参考となる心理尺度として,推薦結果を受け入れやすい傾向にあるかどうかを測定する推薦受容傾向尺度を開発しています。大規模社会調査により構成概念妥当性を検証しています。
推薦信頼モデルの確立
人々が推薦機能や推薦エンジンの違いにより、その推薦性能に対してどのような知覚を行い、それらの知覚から総合的な信頼をどのように形成するのかという心理モデルの解明を目指しています。具体的には、推薦結果のインタフェースに社会的情報を導入するかどうかや、正確性重視の推薦エンジンと意外性重視の推薦エンジンの違いなどが、人々の推薦システムに対する信頼に影響するかを明らかにします。
説得と態度変容
心理学の分野では、相手の信念や態度を変え、行動を変えるためのコミュニケーションを説得と言います。従来は人が自分の意に添うように、他人の行動を変えることを目的に行われていた行為ですが、人工知能 (AI) が高度化し、人間のような応答が可能になってきた現在、AIの説得と、それに対する人々の反応についても、その特徴やメカニズムを解明する必要があります。人の意思を尊重して、AIと共存する社会の実現を目指します。
推奨者提示と推薦受容
推薦システムにおいて、どのようにお薦めを提示すれば、ユーザーに受け入れてもらえるのかを明らかにしています。例えば、お薦めの結果に、そのユーザーの友だちもその商品を購入していることを伝えます。そうすると単にAIによる推薦結果が表示されている場合よりも、ユーザーは商品を受け入れてくれるようになります。近年は、同じ実世界の友人でも、どのような友人であれば、推薦した商品やコンテンツを受容してもらえるのかを明らかにしています。
VTuberの説得力
近年、ソーシャルメディアにおいてインフルエンサーによる商品紹介が人気を得ています。本研究では、動画共有サービスの1つであるYouTubeにおいて、人間がプレゼンターを務めるYouTuberと、3Dのアバターでプレゼンターを務めるVTuberのどちらが、商品紹介動画での説得力があるか(購買意欲が上がるか)を明らかにします。また、その説得力をもたらす理由を、動画に対する好感度やプレゼンターに対する信頼から明らかにします。
興味・嗜好の推定
推薦システムの本質は、ユーザの興味や嗜好を正しく推定することにあります。一方、興味や嗜好というのは、脆弱でもあります。以前は好きだった音楽は、今は聞かなかったり、以前は聴かなかった音楽を、急に聴くようになったりもします。人が興味をいただいたり、物事を好きになったりするメカニズムの解明を目指します。
歌ってみた楽曲の探索
ボーカロイド楽曲が人気になるとともに、それの歌ってみた楽曲も人気を得ています。本研究では、歌手(ボーカル)の声質と音高の二つの観点から音楽を探索可能なインタフェースを開発します。探索対象の楽曲を声質類似度と音高類似度に基づいて2次元マップ上に配置し、また、それぞれの色を声質と音高に関する音響特徴と意味タグに基づいて変更することができるようにします。これで、好きな声質の歌い手の、歌ってみた楽曲を簡単に探すことができるようになります。
視線計測による音楽への嗜好推定
近年の音楽コンテンツは、動画により映像と共に配信されています。K-Popやアイドルの楽曲はダンスが付きものですし、ボーカロイド楽曲はアニメーションが付いています。推薦システムでは、ユーザの興味や嗜好の情報が必要ですが、それを明示的に尋ねることなく取得する必要があります。本研究では、視線計測装置で音楽動画視聴中のユーザの楽曲への嗜好を推定する視聴環境を提案します。